Lesson9-8 消化と栄養素①五大栄養素の利用

三大栄養素といわれるものは、糖質・脂質・タンパク質(アミノ酸)のことで、脂質とたんぱく質についてはLesson4でも学習しました。これにビタミンとミネラルを追加して五大栄養素ともいわれ、日本の栄養学ではこの五大栄養素が基本となります。

◎糖質・脂質・タンパク質

私たちが生きていくうえでのエネルギー源となります。キロカロリー(kcal)という熱量を表す単位が用いられます。

◎ビタミン・ミネラル

代謝を助け、体内の電解質をコントロールします。補酵素として酵素の働きも助けます。

これらをバランスよく摂取することは大切です。
またその五大栄養素に、「食物繊維」と「ファイトケミカル」を加えて七大栄養素、さらに「水」と今まで学習した「酵素」を加えて九大栄養素が現代では注目されていることも合わせて覚えておきましょう。
 

三大栄養素・必要性と現代における問題点

日本の栄養学では、この三大栄養素が特に重視されてきました。どれも大切な栄養素ですが、現代ではその弊害も多く聞かれます。ここでは改めて三大栄養素の必要性と現代における問題点を把握しておきましょう。たんぱく質や脂質については復習もかねて、Lesson4で学習した内容も思い出しながら進めてください。

①糖質

 bitt24/Shutterstock.com

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「糖質」は炭水化物などに多く含まれる栄養素です。米のデンプンも、砂糖も、栄養素としては結果的に同じものです。植物に蓄えられた糖をデンプン、動物に蓄えられた糖をグリコーゲンといいます。
この糖が血液中にどのくらい含まれているかを示すものが「血糖値」で、この値が高くなる病気の一つが糖尿病です。基本的には空腹時の血糖値126mg/dl以上が、糖尿病の診断となります。
食品から糖質を摂取する場合、私たちは基本的に米やパン、麺類といった炭水化物を利用します。こうした糖質は多糖類や二糖類といわれる糖質なので、最終的に単糖類であるブドウ糖に分解されて体内で利用されることになります。
糖質
糖質は1gあたり4kcalのエネルギーを生み出します。糖質は分解や吸収が早く、たんぱく質や脂質に比べて体内ではすぐに利用される栄養素です。特に、脳は基礎代謝の約2割のエネルギーを消費し、主に糖をエネルギー源としていると言われています。血糖値が下がると脳の機能は低下するので、不足すれば肝臓が貯えているグリコーゲンが分解されて、血中にブドウ糖を供給するという仕組みになっています。
余分に摂取された糖は、グリコーゲンという物質に変化して肝臓に蓄えられます。ただし、肝臓に蓄えることができる量は決まっていて、半日~1日分ぐらいしかありません。では貯えきれない余分な糖質はどこに行くのでしょうか。
実は、脂肪組織に運ばれて体脂肪として蓄積されることになります。ですから、摂り過ぎが続くと「肥満」の原因となるのです。
糖質と言われると砂糖のイメージがあり、「甘いものなんてそんなに摂取していない」と感じていらっしゃる方が多いのですが、炭水化物を角砂糖で換算すると大変な量を摂取していることに気づきます白米は茶碗一杯で約14〜17個分、6枚切りの食パンは1枚約9個分、うどんは一杯で約14〜17個分の角砂糖と同量の糖質摂取となります。
anaken2012/Shutterstock.com

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②脂質

脂質は、1gあたり9kcalのエネルギーを生み出します。たんぱく質や糖質の2倍以上です。私たちは脂質の大半を脂肪として摂取していますが、その多くは中性脂肪です。中性脂肪は、脂肪酸とグリセリンで構成されますが、中性脂肪を構成する脂肪酸の種類によって、代謝の仕方や作用が異なるという特徴を持っています。
油抜きダイエットなど脂質を大幅にカットすると、逆にたんぱく質と糖質からエネルギーを補うこととなります。するとかえってたくさん食べてしまう状況に陥りダイエットにならなかったり、また油溶性のビタミンが摂取できずに表皮に黄色い色素が出てきたり、かさかさの肌になってしまうこともあります。また脂質摂取が少なすぎると、便が固くなって排泄しにくくなります
過度な摂取はもちろん避けたほうがよいですが、脂質は脳や私たちの細胞を構成する重要な要素です。摂取量に気を摂られるよりも、質を重視し適量を摂取しましょう。Lesson4-2の油の選び方を参考にし、上質な油を美味しく摂取するのが理想的です。
 

コレステロール

コレステロールも脂質の一種です。
動脈硬化は、動脈の壁にコレステロールが沈着して硬くなったり、狭くなったりすることによって起こるといわれていることもあり、健康診断などの時には目の敵にされるコレステロールですが、コレステロールそのものは血中にある程度は必要なものです。コレステロールは、健康を維持するためには必須の成分なのです。

コレステロールの働き

  • 細胞膜を構成する。私たちの体を形づくる、60兆の細胞すべての細胞膜に必要な成分である。
  • 脂質の吸収を助ける胆汁酸の原料となる。
  • 副腎皮質ホルモンや性ホルモンなどのステロイドホルモンの原料となる。
  • ビタミンDの原料となる。

コレステロールには善玉(HDL)コレステロールと、悪玉(LDL)コレステロールとがあることは広く知られるようになりました。動脈硬化を防ぎつつ、健康な体でいるためには、HDLコレステロール値を高く、LDLコレステロール値を低く保つことが大切です。

コレステロールは悪者?の真実

最初に「動脈硬化は、動脈の壁にコレステロールが沈着して硬くなったり、狭くなったりすることによって起こる」といい今までの定説をご紹介しましたが、最新の研究により異なる説が有力となっています。
何らかの理由により血管が傷ついた際、HDLコレステロールがその補修のために傷口に集まっている状態を、今まではコレステロールが血管を詰まらせていると認識していた、という説です。動脈硬化のそもそもの原因は血管の傷、つまり血液がドロドロしていたり、血糖値が急上昇と急降下を繰り返す事であり、コレステロールはその傷を補修してくれているのです。
また、コレステロール値が高いと卵の摂取を控える方がいますが、これも現在では関係が無い事がわかっています。食事から得たコレステロールがそのまま血中のコレステロール値を上げることについて、過度に心配する必要はありません
ところで、こうした脂肪の合成や分解を行うのも、肝臓です。余分な脂肪は、中性脂肪として脂肪細胞のなかに蓄積されていきます。いわゆる「皮下脂肪」はこの細胞がたくさん集まっている組織です。蓄積された脂肪は、必要に応じてエネルギー源として供給されることになります。
 

③たんぱく質

alexpro9500/Shutterstock.com

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たんぱく質は、アミノ酸がたくさん結びついてできた化合物です。糖質と同様に、1gあたり約4kcalのエネルギーを生み出します。
たんぱく質はアミノ酸でできた長い鎖のようなものと表現されます。私たちの体の主成分はたんぱく質であり、細胞は必要なたんぱく質をアミノ酸から合成します。人間だけではなく、生物の体を構成するアミノ酸の種類は20種類です。これがどのように結合するのかによって、性質や働きの異なるたんぱく質が合成されます。つまり、材料となるアミノ酸は同じですがその配列が異なるのでそれぞれ別な生物となるのです。
私たちの体はたんぱく質を摂取するとアミノ酸に分解し、必要に応じて様々なたんぱく質を合成します。体の中で合成できないものもあるので、これは食事で摂取するしかありません。こうしたアミノ酸を必須アミノ酸といいます。

お肉を食べてスタミナは付く?

その一方でたんぱく質は、エネルギー源としても使用することができます。燃焼させてエネルギーを作り出すことができるわけです。「焼肉を食べて、スタミナをつけよう!」というのは、まさにこの発想からきているわけですね。
しかし、たんぱく質をエネルギー源として使用した場合、実は体には大きな負担がかかることは本講座でもすでに学習しました。たんぱく質は構造が複雑なために、消化するのに多くのエネルギーを消費するからです。また、アミノ酸が燃焼されるとアンモニアが発生します。このアンモニアは、体にとって毒物にほかなりません。アンモニアは、肝臓が無害の尿素に変えてくれますが、言い方を変えればそのために肝臓にも負担をかけるということです。さらに、尿素は血液によって運ばれて腎臓でろ過され、尿として排泄されるため腎臓にも負担をかけることになります。
このように、タンパク質の消化・吸収には、エネルギーを使うだけでなく様々な臓器にも負担をかけことになります。ですから「スタミナをつけるために肉!」というのは大いなる誤解であるといえるでしょう。
お肉を体に優しく食べるポイントは、適量のお肉をたっぷりの生の野菜や発酵食品と一緒に食べる事です。生野菜や発酵食品の酵素やビタミン・ミネラルがお肉の消化を補助し、また自然にお肉の摂取量も少なくなります。韓国の焼き肉でたっぷりすぎるほどのサンチュとキムチが出てくるのは、理にかなった肉の食し方なのです。
 
■Lesson9-8 まとめ■

  • 糖質・脂質・タンパク質は、私たちが生きていくうえでのエネルギー源となり、キロカロリー(kcal)という熱量を表す単位が用いられる。ビタミン・ミネラルは代謝を助け、体内の電解質をコントロールし、補酵素として酵素の働きも助ける。
  • これまでの栄養学は五大栄養素を重視してきたが、五大栄養素に「食物繊維」と「ファイトケミカル」を加えて七大栄養素、さらに「水」と今まで学習した「酵素」を加えて九大栄養素が現代では注目されている。
  • 「糖質」は炭水化物などに多く含まれる栄養素である。植物に蓄えられた糖をデンプン、動物に蓄えられた糖をグリコーゲンという。
  • 余分に摂取された糖は、グリコーゲンという物質に変化して肝臓に蓄えられるが、その量は決まっており、貯えきれない余分な糖質は脂肪組織に運ばれて体脂肪として蓄積される。
  • 中性脂肪は、脂肪酸とグリセリンで構成されるが、中性脂肪を構成する脂肪酸の種類によって、代謝の仕方や作用が異なるという特徴を持つ。
  • コレステロールには善玉(HDL)コレステロールと、悪玉(LDL)コレステロールとがあり、動脈硬化を防ぎつつ、健康な体でいるためには、HDLコレステロール値を高く、LDLコレステロール値を低く保つことが大切である。
  • コレステロールは細胞膜を構成したり、副腎皮質ホルモンや性ホルモンなどの原料となる重要なものである。
  • たんぱく質はアミノ酸でできた長い鎖のようなものであり、私たちの体は構成要素で重要ななたんぱく質をアミノ酸から合成する。
  • 構造が複雑な肉などのたんぱく質をエネルギー源として使用した場合、実は体には大きな負担がかかり、またアミノ酸が燃焼されるとアンモニアが発生するのでその分解のためにも多くの臓器が働くこととなる。