日本には根強い牛乳神話があります。幼稚園、小学校、中学校でも、学校で牛乳が支給され、牛乳はどれだけ体にいいかというガイドブックも配布されますね。
「牛乳を飲まない子は背が伸びない」
「牛乳は鼻をつまんででも飲んだ方が体によい」
さて、これは本当でしょうか。
崩れ始める牛乳神話
「病人にたんぱく質」という認識同様、「子どもに牛乳」「カルシウムを摂取するには牛乳」という認識についても、昨今再検証が行われるようになってきました。牛乳は、小児糖尿病、アトピー性皮膚炎・花粉症・ぜんそくなどのアレルギー疾患、貧血、肥満、骨粗しょう症、心臓病、乳がん等々、現代の人々を悩ませている疾患の最大の原因となっているという指摘もなされています。
牛乳を飲むとお腹がゴロゴロするという人は、日本人に多くみられます。これは、日本人をはじめとするアジア系の人種は、牛乳や乳製品に含まれる「乳糖」を分解するのが困難な体質をしているためです。日本人の多くは、牛乳や乳製品を摂取しても消化・吸収するのが苦手なのです。
これはつまり、乳製品の消化には多くのエネルギーを要し、かつ消化しきれない場合には栄養素として利用することができないということです。カルシウムの不足を補うために牛乳を飲む人も少なくありませんが、カルシウムに限らず牛乳の栄養素は、仔牛が効率よく摂取できるように構成されています。少なくとも、人間に都合良くは作られていません。
牛乳は日本人にとって効率のよいカルシウム源ではない
牛乳中のカルシウムは20〜35%しか吸収されないという結果が報告されています。
またアメリカ11州に住んでいる30歳〜55歳の女性看護師約8万人を対象としたハーバード大学実施の大規模な調査で、1980年から12年にわたって牛乳や乳製品の摂取と骨折の関係について追跡調査したところ、牛乳を毎日飲んだグループと、牛乳を週に一度以下しか摂取しなかったグループで、それぞれのグループの骨の強さは全く違いが無かったという調査結果が出ています。「牛乳を飲めば骨が強くなる」という結論は導き出せなかったのです。
「牛乳を飲めば骨が丈夫になる」という教育を受けてきた私たちにとっても、これは意外な結果とも言えます。なぜこれほどまでに牛乳中のカルシウムは吸収しにくく、体にとってメリットになりにくいのでしょうか。
原因①リンを多く含んでいる
その原因の一つは、牛乳がカルシウムだけでなく「リン」を多く含んでいることが上げられます。リンは腸管内でカルシウムと結合し、カルシウムの吸収を阻害する働きがあります。
そのため多くの栄養学者が、カルシウム源として適しているのはカルシウムの比率が2:1以下(3:1や4:1)の食品だと主張しています。ちなみに牛乳の中のカルシウムとリンの比率は2:1よりもやや大きいのです。
ただでさえ加工食品を多く摂取する現代人はリンが過剰になりがちなため、吸収効率の良さを考えても、カルシウム源としてリンが少ないの食品を選ぶほうが理にかなっています。
原因②動物性たんぱく質を多く含んでいる
もう一つの理由は、牛乳や乳製品は、動物性たんぱく質を非常に多く含む食品ということが挙げられます。Lesson3-2で加工食品や有害な物質は酸性の性質を持つと学習しましたが、動物性たんぱく質も体内で酸性物質となるものの1つです。
動物性たんぱく質を多く含む牛乳や乳製品の過剰摂取は、骨からカルシウムが溶け出す「脱灰」が促進されます。たんぱく質を代謝する過程で生じる尿酸や硫酸が原因で、血液が酸性に大きく傾き、それを中和するのに骨中のカルシウムが動員されてしまうのです。
原因③マグネシウムの含有率が低い
牛乳や乳製品は、カルシウムとマグネシウムの比率が悪く、マグネシウムがほとんど含まれていません。マグネシウムは、カルシウムとセットで重要なミネラルです。私たちの体は、血液中のカルシウムが不足しないよう、骨から補充するなどして常に血液中のカルシウム濃度を一定にしていますが、マグネシウムが不足するとその調節がスムーズに運ばず、ここでも骨中から過剰にカルシウムが溶け出す脱灰が促進されてしまうのです。
牛乳や乳製品を多く摂取する生活を続けると、食事全体のカルシウムとマグネシウムの摂取比率が大きく崩れた状態になり、マグネシウム不足になります。食の欧米化によりそもそもマグネシウム不足が指摘される現代人には、無視できない現象です。
原因④大量生産される牛乳の質
日本で生産される国産生乳の生産量は 約763万t(2010年度)で、このうち約54%の411 万tは飲用向けに、残りの約46%の352万tは加工品向けなどに利用されています。
毎日搾乳されている牛乳ですが、本来動物の乳というのは子供を育てるために出てくるものです。子牛が小さい時にしか出ないはずの乳が、毎日何十ℓも絶え間なく出てくる状態は、少し不自然であり、ホルモンバランスの影響が指摘され始めています。
また、日本では牛乳は製造過程において必ず殺菌をすることが義務づけられています。日本の乳業工場のほとんどが採用しているのが超高温短時間殺菌法(UHT法)という殺菌方法で、これは120~150 ℃で1~3 秒間の殺菌処理する方法です。
100 ℃を超す高温での殺菌温度のため、滅菌と言えるほどに完全に細菌及び微生物を死滅させることができるとされており、さらに短時間の高温殺菌のため牛乳の栄養成分などの影響はないと乳業界ではされていますが、これにも疑問が残ります。
たんぱく質は本来熱変化に非常に弱いものです。120~150 ℃の高温物が私たちの皮膚に一瞬でも触れようものなら、少なくとも表皮のやけどは免れないでしょう。牛乳に含まれるたんぱく質や栄養素にも全く変質がないとは考えにくいのです。事実、可能な限り低温で丁寧な殺菌方法で作られた牛乳は、市販の牛乳とは全く異なる味となります。
事実を知る事と私たちの選択
また牛乳の飲用に関しては、倫理的な面からも様々な意見があります。牛乳の健康への影響に関して様々な意見がある中で、なぜ日本はこれほどまでに牛乳を重要視した教育をしているのか、スーパーでは毎日大量の牛乳が並んでいるのかに関しては、興味がある方がいたらぜひ調べて、知識をより深めてみてください。これには政治的・産業利益構造的な要因もあります。
「牛乳」そのものが全て悪いという議論でなはく、日本で流通しているものの「質の低さ」が問題なのです。
日本人はミルクというと牛乳が1番、次いで豆乳を思い浮かべますが、世界的には様々なミルクの選択肢が生まれています。少しずつブームになっているアーモンドミルクやカシューミルクなどのナッツミルク、ココナッツミルク、ヘンプシードを使用したヘンプミルク、また日本でも近年ライスミルクに注目が集まっていますね。
今まで当たり前だと思っていたものでも、きちんと選択する必要があるものは多くあります。今ある常識にとらわれず、幅広い知識を持ち様々な視点で物事を判断していきましょう。その手始めとして、牛乳神話から一度離れているのもよいかもしれません。牛乳が体にとって悪いものだとは断言できませんが、体に良いと思って無理に沢山摂取すべきものではないのは事実なのです。
■Lesson4-4 まとめ■
- 牛乳が日本人にとって健康に良いものだという認識が近年改めて検証されており、小児糖尿病、アトピー性皮膚炎・花粉症・ぜんそくなどのアレルギー疾患、貧血、肥満、骨粗しょう症、心臓病、乳がん等々、現代の人々を悩ませている疾患の最大の原因となっているという指摘もある。
- 日本人をはじめとするアジア系の人種は、牛乳や乳製品に含まれる「乳糖」を分解するのが困難な体質のため、乳製品の消化には多くのエネルギーを要し、かつ消化しきれない場合には栄養素として利用することができない。
- 牛乳は①カルシウムの吸収を阻害するリンを多く含んでいる事、②体を酸性に傾け骨からカルシウムを溶け出させる脱灰を促進する動物性たんぱく質を多く含んでいる事、③カルシウムとバランスを取るためのマグネシムが不足している事、④大量生産され高温殺菌される日本の牛乳の質が問題視されている事など、様々な点から考えて日本人にとって効率のよいカルシウム源とは言い難い。
- ミルクという選択肢が世界的に増えており、現在アーモンドミルクやカシューミルクなどのナッツミルク、ココナッツミルク、ヘンプシードを使用したヘンプミルク、また日本でも近年ライスミルクなど第三のミルクに注目が集まっている。