Lesson4-3 脂質②トランス脂肪酸とは何か

トランス脂肪酸とは

「不飽和脂肪酸」は、さらに構造上の違いから、「シス(cis)型」と「トランス(trans)型」とに分けることができます。健康を阻害するとして悪名高い「トランス脂肪酸」は、そういう名前の「脂肪酸」があるわけではなく、「不飽和脂肪酸」の型の名前です。
シス型とトランス型は分子構造において下記のような違いがあります。

シス(cis)型

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「トランス(trans)型」

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トランス型の特徴

天然に存在している不飽和脂肪酸はほとんどがシス型です。自然界ではトランス型はほとんど存在していません。(牛などの反芻を行う動物の胃の中では、微量のトランス脂肪酸が生成されることがあります。)
トランス型はその多くが、植物油脂を水素添加や加工・精製する工程で生まれる産物です。不飽和脂肪酸は酸化や劣化がしやすく、不安定な性質を持つことを既に学習しました。その不飽和脂肪酸に水素添加することにより、加工や保存がしやすい安定した性質の脂質に変化させることができるため、このような加工処理が現代では多く行われています。
マーガリン、ファットスプレッド、ショートニングといった油脂製品が該当し、それらを使って加工したパン・ケーキ・ドーナツなどの洋菓子、フライドチキンなどの揚げ物等などにもトランス脂肪酸が多く含まれます。加工されたトランス型の油脂はバターなどに比べて安価であり、保存性が高まり、サクサク・ふわふわとした食感を生み出せるなどの産業的メリットが多々あるため、大量生産の製品に多く使用されるのです。
多くの人が好んでよく食べるものや、利便性に優れて人気があるものなどにはトランス脂肪酸が多く含まれている、というわけです。
 

トランス脂肪酸が体に与える影響

トランス脂肪酸は科学の発展により生み出されたものであり、自然界にはもとより人間界にすらその歴史が浅い脂質です。自然界には本来存在しなかったものを処理する機能を私たちの体は持ち合わせていないため、体内での分解や代謝には長い時間がかかります。つまり、余分なエネルギーを使う(ビタミンやミネラルを消費する)ことになるのです。
さらに、なんとか処理したとしてもそれが体にメリットとして働くことはなく、老化やガンを引き起こすとされる「活性酸素」を作り出すというやっかいな行動をします。トランス脂肪酸の影響が危惧されているのは、まさにこの点です。
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「植物油脂だから体によい」という幻想

「飽和脂肪酸は中性脂肪のやコレステロールを増やし体に悪影響を与える。バターの代替として植物製のマーガリンを使用することで、飽和脂肪酸を摂取しなくてすむ上に、バターより安価で家計にもやさしい」
そのような企業の宣伝文句に納得し、マーガリンやショートニングを使用してきた方は多いでしょう。確かに、マーガリンやショートニングなどの原材料には、とうもろこしや、菜種、大豆といった「植物」が使われています。私たちは植物由来の成分」と聞けば、なんとなく健康に良いようなイメージを持ってしまいますが、これは大きな勘違いといえます。
水素添加されたもの、というのはわかりやすく言ってしまえばプラスチックと同じです。毎日毎日プラスチックを食べていると考えると、難しいことを考えなくとも体に悪いような、不快な印象を持つでしょう。しかし、事実そういうことなのです。
その危険性は、各国のトランス脂肪酸に対する規制からも垣間見ることができます。
 

各国の規制と日本の状況

次々と進む各国の規制

2013年アメリカの食品医薬品局(FDA)は、菓子やマーガリンなどに含まれているトランス脂肪酸の使用を、段階的に禁止すると発表しました。トランス脂肪酸を「食用として安全と認められない」と、暫定的にではありますが断定したことになります。
アメリカがトランス脂肪酸について規制を設けるようになったのは、2003年にスナック菓子を製造する業者に対してトランス脂肪酸の使用を禁じる訴訟がおきて、業者は代替品を使うように求められたことがきっかけです。2006年からは、一食あたり0.5g以上の加工食品には、トランス脂肪酸の含有量を表示する義務が課せられるようになりました。さらに2007年、ニューヨーク市では外食産業にトランス脂肪酸の使用を禁止する措置をとっています。
アメリカだけではなくカナダや韓などでも、トランス脂肪酸の表示義務を課していますし、イギリスやデンマークなどでは摂取量に対する勧告や罰則規定などが設けられています。WHO/FAOの2003年のレポートでは、虚血性心疾患、認知機能の低下、アレルギーなどへの影響があると指摘、摂取量は全カロリーの1%未満にするように勧告しています。

大幅に遅れている日本の対応

このように欧米では厳しく規制されるようになってきているトランス脂肪酸ですが、日本ではまだそうした動きはありませんコンビニエンスストアやスーパーで販売されいている安価なパンやお菓子は、そのほとんどにトランス脂肪酸を含む油脂を使用していますが、それらは表示義務もないため私たちはその存在を意識することもありません。
「日本人の食生活は欧米人とは異なり、欧米人ほど多量にトランス脂肪酸を摂取していないから、同じ基準を用いる必要はない」、というのが日本で規制に踏み切らない理由のようです。日本ではトランス脂肪酸に関しても「バランスの良い食事を心がけて自己管理を。食品業界は、使用を減らす努力を。」という、当然といえば当然のことを呼びかける程度の喚起に留まっています。
しかし、1袋で1日のトランス脂肪酸の摂取許容量を超えてしまうようなお菓子があり、また、「トランスファット・フリー」などと表示されていても、発がん性が指摘されるアクリルアミドなどの添加物の問題も懸念されます。さらに、厚生労働省が推奨する保健機能食品には、トランス脂肪酸を使用しているものもあります。
日本のこうした対策に対して不十分だという意見も上がっていますが、国の対策はまだ欧米並みには至っておらず、あくまでも個人の判断にゆだねられているのが現状です。消費者が知識を持ち、自分にとって何が必要なのか、家族を守るためにはどのような選択が必要なのかを、しっかりと判断できるよう賢くなる必要があります。
 
■Lesson4-3 まとめ■

  • 不飽和脂肪酸は構造上の違いから、「シス(cis)型」と「トランス(trans)型」とに分類される。天然に存在している不飽和脂肪酸はほとんどがシス型で、トランス型はその多くが、植物油脂を水素添加や加工・精製する工程で生まれる産物である。
  • 不飽和脂肪酸に水素添加することにより、加工や保存がしやすい安定した性質の脂質に変化させることができる。
  • トランス脂肪酸の代表製品としてはマーガリン、ファットスプレッド、ショートニングなどが該当し、それらを使って加工した洋菓子類や揚げ物等などにもトランス脂肪酸が含まれる。トランス型の油脂はバターなどに比べて安価であり、保存性が高まる、サクサク・ふわふわとした食感を生み出せるなどの産業的メリットが多々あるため多く使用されてきた。
  • トランス脂肪酸は本来自然界には本来存在しないものであり、私たちの体はそれを処理する機能を持ち合わせていない。そのためにトランス脂肪酸の代謝には多くのエネルギーやビタミンやミネラルを消費する。
  • トランス脂肪酸は体のなかで、老化やガンを引き起こすとされる「活性酸素」を作り出す。
  • 2013年アメリカの食品医薬品局(FDA)は、菓子やマーガリンなどに含まれているトランス脂肪酸の使用を、段階的に禁止すると発表した。その他カナダや韓国などでもトランス脂肪酸の表示義務付け、イギリスやデンマークなどでは摂取量に対する勧告や罰則規定を課している。
  • 日本における対応は大幅に遅れており、多くの製品に使用されているため、無意識にトランス脂肪酸を摂取している。消費者が知識を持ち賢く選択することが求められている。