日本では「健康のためには○○品目食べる事」というように、「何を食べるか・どれだけ栄養を摂取するか」が重視されます。しかし、食べた物は消化されて初めて、私たちの体内で様々な働きが可能となります。そのため、いくら栄養満点の食品を沢山食べたとしても、食べ過ぎて消化不良を起こしたり、消化器官の働きが弱まっていてしっかり消化・吸収作業を行えないようでは、その栄養は私たちの細胞には届きません。
口に入れただけでは何の意味もありません。吸収されるための「消化」という段階がとても重要になるのです。
ファスティングの目的の1つにも、消化器官などの内臓器官を休ませることで回復を図るということがあります。ここでは消化について、理解を深めていきましょう。
消化と眠気
Lesson1-2でも「消化」には莫大なエネルギー使われていることを簡単に説明しました。これを最も実感できるのが食後の眠気です。
食事の後は、急な眠気を感じる人が多くいます。
食べたら眠くなる、というのが当たり前だと思い込んでいる人も多いのですが、実はそうではありません。消化の働きを理解することで、この眠気を感じず食後も活動的に仕事などをこなせるようになります。
この眠気には消化との深い関わりがあるのです。
食べ物が胃に入ると、血液は消化作業のため胃をはじめとする消化器官に集中します。その結果、脳の血流が減り、眠くなるというわけです(食後の眠気は血糖値とも関係しています)。一般的な食事をしている人は、消化にフルマラソンをするために必要なカロリーに相当するエネルギーを消費しているのです。これほどのエネルギーを費やしているともなれば、眠くなるのも体の正常な反応の1つとも言えるでしょう。
消化作業を優先する理由
食後の眠気の仕組みは分かったけれど、体の司令塔である脳を置き去りにしてまで、消化にエネルギーを集中するというのは、なんだか違和感を感じませんか?体の器官の中で最も重要だと思われる脳を差し置いてまで、消化作業に集中するのはなぜなのでしょうか。
食事の後に眠くなる、つまり脳への血液まで胃に集中させるのは、きちんと理由があります。
体内温度は約36℃〜37.5℃前後、その体内に食べ物を長時間放置しておくことは、高温多湿な室内に食べ物を放置しておくことと同じ状況となります。そうすると食べ物は時間が経過するにつれて痛み、腐敗していきます。真夏の暑い室内に何時間も放置した食べ物を食べようとは、誰も思わないでしょう。しかし、消化に時間がかかると、体内ではこれと同じ事が起こっているのです。
消化しきれない食べ物が体内に長時間存在すると、やがて発酵・腐敗が始まります。一度発酵・腐敗した食べ物は、体は栄養素として利用することができず、せっかくの食事が無駄になってしまうのです。さらに栄養として利用できなくなるばかりではなく、体にとって有害な物となる事もあります。
そんな危険な状態にはしたくないので、私たちの体は食べ物が入ってくると他の活動を差し置いてでも消化作業を始めます。少しでも早く栄養素が利用できる状態のまま、胃から腸へ送り出そうとするのです。
消化にエネルギーが割かれることの弊害
消化に多くのエネルギーを使ってしまったとしても、私たちの体は消化だけを行っていればいいわけではありません。消化をした後は、吸収しなければなりませんし、古い細胞を新しくする必要もあります。筋肉や骨格を正常に動かしたり、脳を働かせたりもしなければなりません。そして、すでに述べたように排泄もしなければならないのです。それにも関わらず消化で莫大なエネルギーが消費されてしまうと、その他のことに利用できるエネルギーが不足してしまいます。
また、他の活動でエネルギーが消耗されている時に、消化に負担がかかるようなものを食べてしまうと、食べ物は消化が不十分なまま小腸や大腸へ送られることになります。未消化の食品は体にとって異物となり、とても有害です。消化不十分なまま腸へ送られた結果、腸内で発酵(腐敗)が始まり毒素が産生されるという事態も引き起こします。
また、胃に入った食べ物が、小腸へ入るまでには少なくとも約3時間かかるとされます(食べ物の組み合わせや消化能力によりもっと時間がかかる場合もあります)。口寂しさを紛らわせるために絶えず食べ物を口にしていると、胃は、休みなく常に働いている状態となります。エネルギーを無駄に消耗させ、かつ胃にも休みを与えずに毎日を過ごせば、体は疲れきってしまうのです。
これらを解決するためには、消化に負担をかけない事が最も根本的な解決法となります。
消化にかけるエネルギーを節約するためには、胃腸に負担をかけないものを、負担をかけないように食べる、ということを心がける必要があります。
消化に負担がかからない食事をすることで、食後眠くなることはありません。ファスティング中は特に、うとうととした眠気を感じることがなくなったという方が多数いらっしゃいます。
食後眠くなることなくすぐに集中して仕事ができるとなれば、仕事の生産性も格段に上がるでしょう。健康に気を遣う方だけでなく、仕事をがんばりたい方にもこの知識は非常に活用できるものです。
■Lesson3-3 まとめ■
- 日本の栄養学は食品や栄養を摂取することに注目するが、大切なのは口に入れた食品がきちんと消化、吸収されて私たちの体で働けることである。
- 食べ物が胃に入ると、血液は胃をはじめとする消化器官に集中する。その結果、脳の血流が減り、眠くなる。
- 体が脳よりも消化器官にエネルギーを割くのは、消化に時間がかかることで体内で食品が発酵・腐敗し、有害な物質になることを避けるためである。
- 消化に負担がかかる食品ばかり食べていると、消化で莫大なエネルギーが消費され、細胞の入れ替えや身体の運動、脳の働きなど、他の重要なことに利用できるエネルギーが不足してしまう。
- 消化にエネルギーが割けない状態で消化に負担がかかる物を食べると、十分な消化ができず、未消化のまま腸に運ばれる。消化不十分なまま腸へ送られると体内では異物となり、腸内で発酵(腐敗)が始まり毒素が産生されるという事態も引き起こす。
- 消化にかかるエネルギーを抑えるためには、消化に負担がかからないものを選ぶ、もしくはしっかりと空腹の時間を作ることが大切である。