Lesson10-3 消化・排泄と体内器官③

肝臓

ギリシャ神話に、プロメテウスという神様が登場します。プロメテウスは、人々が寒さに凍えている様子を哀れに思い、「天界の火」を盗んで人類に与えました。全能の神ゼウスはこれに激怒、プロメテウスを捕え岩場にはりつけにさせると、生きながらにしてハゲタカに肝臓をついばませるという拷問を行いました。不死であるプロメテウスの肝臓は、ハゲタカについばまれても再生し、翌朝にはもとの状態に戻ったといいます。のちに、プロメテウスはヘラクレスという英雄に助けられるのですが、それまで延々と肝臓をハゲタカについばまれていたわけです。

Lucian Milasan/Shutterstock.com

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実は人間の肝臓は、このプロメテウスと同じように「再生」することができる唯一の臓器です。人間の器官や組織は失われたらもとには戻りませんが、肝臓だけは例外で、肝臓は何かの病気で切除したとしても不思議なことに再生されます。肝臓の不思議はそれだけではなく、肝臓は化学工場に例えられます。その多機能ぶりをいくつかご紹介しましょう。

肝臓の働き

  • グリコーゲン(動物の体に蓄えられる糖質)の分解と合成
  • 脂肪やコレステロールの合成と分解
  • たんぱく質の合成
  • アミノ酸の分解
  • アンモニアを尿素に変える
  • アルコールなどの毒素を分解する(解毒)
  • 胆汁を産生する
  • 鉄やビタミンを貯蔵する
  • ビリルビンを代謝する・・・など

以上のように、肝臓は実に多彩な仕事をしています。この仕組みを人工的に作り出すことは理論的にも到底不可能と言われるほど、有能な臓器なのです。しかし逆の言い方をすれば、肝臓が病気になるとこれらの機能が減退するので体中に問題が生じることになります。
ところで、血液の主要な要素である赤血球は、寿命がおよそ120日といわれます。寿命がきた赤血球は、脾臓という臓器で壊されます。赤血球に含まれるヘモグロビンは、ヘムとグロビンからできていることは既に学習しました。ヘムは鉄とそれ以外の物質からできており、ヘムの鉄は再利用され、それ以外の物質はビリルビンとして廃棄されます。
このビリルビンは、血液によって肝臓に運ばれ「廃棄しやすい形」に加工されます。加工されたビリルビンは、胆汁の中に捨てられるのです。ビリルビンは胆汁色素ともいい、便が黄土色をしているのは実はこのビリルビンの色によるものです。このように、ビリルビンは胆汁を経て、体外へ廃棄されるわけですが、この廃棄がうまくいかず、血液中にたくさんのビリルビンが残っている状態が「黄疸」です。

Ana del Castillo/Shutterstock.com

フォアグラは、脂肪分をたっぷりと溜め込んだガチョウやアヒルの肝臓です Ana del Castillo/Shutterstock.com


以上のように肝臓は実に多機能です。それにもかかわらず、肝臓は自らを再生させる能力を持つので、多少の障害が出ても症状には現れにくく、症状が表れたときにはすでにかなり進行している状態であるといわれます。
肝臓は有能で立ち直りが早く口数の少ない臓器です。アルコールが大好きな方だけでなくとも、「これからは大事にしてあげよう」という気持ちになりませんか?
 

腎臓

体内の不要な物質を捨てることを排泄といいます。排泄というと尿や便のことをイメージしますが、肺からは二酸化炭素を排泄し、皮膚からは汗という形で水や電解質を排泄しています。尿や便だけではなく、こうしたものも大切な「排泄物」です。
腎臓は代表的な排泄器官です。腎臓からは、水、塩分などの電解質、尿素などの老廃物を尿という形にして排泄します。腎臓は、血液をろ過して尿を作り出しますが、ろ過を行うためにはある程度の血圧が必要となります。つまり血圧が低下すると尿をつくることが難しくなり、血液から不要なものをろ過することができなくなるのです。
1日の正常な尿の量は約1ℓから1.5ℓです。尿の量は多くてもいけませんし、少なすぎてもいけません。1日に10回を超えるような排尿回数を頻尿といいますが、頻尿だからといって尿の量が多いとも限りません。また腎臓では尿が産生されているにもかかわらず、尿路の異常やストレス、仰向けに寝たきりの状態にあると、排尿ができないこともあります。
実は腎臓は尿を作ることだけが仕事ではありません。腎臓は内分泌器官でもあるので、血圧を上昇させたり、造血を調節したり、骨の生成に関わるホルモンも分泌しているのです。ですから、腎不全というのは尿の問題だけにとどまらず体全体にも影響を与えます。

腎臓不調の弊害

まず、尿として体外に排泄されるべきものが体内に滞ることになりますから、様々な症状が出てきます。中でも最も怖いのが、高カリウム血症という症状です。カリウムの濃度が高いと、心室細動(心臓のリズムが狂う)を起こして急死することもあります。その他にも、高血圧や貧血、骨折なども引き起こしかねません。
女性は尿路が短いことなどから、腎臓のトラブルを抱えることが少なくありませんので、注意が必要です。
 
■Lesson10-3 まとめ■

  •  人間の肝臓は、「再生」することができる唯一の臓器である。
  • 肝臓の機能は多岐にわたり、①グリコーゲン(動物の体に蓄えられる糖質)の分解と合成、②脂肪やコレステロールの合成と分解、③たんぱく質の合成、④アミノ酸の分解、⑤アンモニアを尿素に変える。⑥アルコールなどの毒素を分解する(解毒)、⑦胆汁を産生する、⑧鉄やビタミンを貯蔵する、⑨ビリルビンを代謝するなど、様々な働きを行っている。
  • 肝臓は自らを再生させる能力を持ち、多少の障害が出ても症状には現れにくく、症状が表れたときにはすでにかなり進行している状態であることが多い。
  • 腎臓は代表的な排泄器官であり、尿を作る働きを担っている。
  • 腎臓は内分泌器官でもあり、血圧を上昇させたり、造血を調節したり、骨の生成に関わったりするホルモンも分泌している。そのため腎不全というのは尿の問題だけにとどまらず体全体にも影響を与える。
  • 女性は尿路が短いことなどから、腎臓のトラブルを抱えることが少なくないため注意が必要である。