環境ホルモンとは
近年、環境ホルモンの問題が至る所で聞かれるようになりました。
多摩川に住むオスの鯉から精巣の中に卵を持つものが見つかったり、全国の海岸で見られるイボニシという巻き貝のメスにペニスが生えるという現象。こうしたインポセックスを始めとした「生殖異常」の例が、近年世界各地より報告されています。また、ワニやカモメの卵が孵化しないという現象や、ワシが巣作りを放棄したり、ミンクが子供を生まない等、その数は非常に多くなっています。
また動物だけでなく、人間にもその影響が及んでいます。女性の場合、不妊率の上昇や乳がんの増加、また男性の場合は精子の量の減少や奇形問題が深刻です。若い世代でも、正常な精子を持つ人が驚くほど少ないのです。
これらの生殖異常の原因として「環境ホルモン」あるいは「内分泌撹乱物質」と呼ばれる化学物質の影響が考えられています。
環境ホルモンという呼び名は、特定の物質の名前ではなく、生物のホルモンの働きを狂わせてしまう化学物質の総称です。環境ホルモンは、生体にホルモン作用を起こしたり、逆に体内の正常な働きをするホルモンの働きを壊すことで、様々な異常を引き起こします。
環境ホルモンによる異常の原因とは?
環境ホルモンとは、生物のホルモンの働きを狂わせてしまう化学物質です。
ここまでしっかり学習を進めているあなたなら、私たちの生活がどれだけ化学物質で溢れているかもうお分かりでしょう。日々の生活の中で、無意識のうちにその化学物質(環境ホルモン)は身体の中に取り込まれています。
具体的には、殺菌剤・防腐剤・殺虫剤・農薬・食品添加物・ダイオキシンなど、約70種もの化学物質が環境ホルモンとしてあげられています。さらに、環境汚染された状態の川や海などからも有害物質が検出されており、産廃処分場の侵出水から30種以上の環境ホルモンが検出されたという例もあります。
これらのものが毎日少しずつ、動植物や私たちの体に蓄積されていきます。体の小さい動物や汚染された川に住む魚などは、その影響が大きく現れてきます。環境ホルモンの異常の原因は、毎日取り込んでしまっている、私たち人間が創り出した化学物質なのです。
環境ホルモンの人体への影響
環境ホルモンは人や生物に、多大な悪影響を及ぼすことがわかっています。
環境ホルモンの影響例
- 知能低下・学力障害
- 注意力欠如
- ストレスへの過剰反応
- 拒食症
- 強迫神経症
- 様々な不安症・鬱状態
- アレルギー
- 胎児への影響(奇形や先天異常、健康障害)・・・など
近年キレやすい子供の増加も問題視されていますが、白砂糖と合わせて環境ホルモンの影響ではないかという指摘もあります。
食品添加物のところでも学習しましたが、我々が普段何気なく口にしているコンビニエンスストアの食品やスーパーの総菜、ファーストフードなどは、着色料や保存料といった食品添加物が大量に含まれています。さらに食品だけでなく、カップメンや弁当の容器、缶ジュースや缶詰の缶には化学物質が使用されており、微量ですが溶け出して私たちの体内に入ります。ヘルシーの代名詞だったトマトスープも、缶に入っているものは高い確率で有害化学物質を含んでいます。
食品添加物からの化学物質の摂取の最も怖い点は、子供が摂取しやすく影響を受けやすいことです。環境ホルモンの影響例でも、子供への影響が近年急増しているものが多く見られます。
環境ホルモンから身を守る方法とは?
このように様々な影響がある環境ホルモンから身を守るためにはどうしたらよいのでしょうか。
①有害物質となるものの摂取をしない
まずは、体の中に取り込む量を極力少なくすること、これが最も根本的な解決策です。有害物質とは具体的に、添加物入りの食品や、農薬を使った野菜など今まで学習してきた部分です。本物の無添加食品を見極めて安心な食べ物を選ぶことが大切です。
②ビタミン・ミネラルを積極的に摂取し、デトックスを促す
有害物質を取り込んでしまった場合、その排泄や解毒にはビタミンやミネラルを積極的に摂取することが大切です。
有害物質や化学物質が体内に侵入すると、処理しきれずに蓄積される場合も多いのですが、ビタミンやミネラルを積極的に摂取することによって解毒作用が働き、体外への排泄がしやすくなります。フレッシュな生絞りジュースを多量に用いるファスティングが、デトックスに有用なのもこれが理由です。逆に、ビタミンやミネラルを摂取できていない人ほど、排泄・デトックス力が弱く、有害物質を蓄積してしまいます。
③食物繊維も積極的に摂取し、腸内環境を整える
食物繊維を積極的に摂取することで、腸内環境を整えることができ、有害物質を体外に排泄しやすくなります。腸は第二の脳と言われるほど重要な器官であり、ホルモン分泌から栄養の吸収、有害物の排泄まで、多くの機能を備えていますが、食物繊維により排泄力を高めることで、様々な体調の改善もみられます。
サラダやスムージーなど、野菜や果物の食物繊維を積極的に摂取することにより腸内環境が整い、有害物質を排泄しやすくなります。
日本での環境ホルモン問題の発覚
今から40年以上も前、食品の安全性を根底から覆す大事件が起きました。食用油から、毒性の高いPCB(ポリ塩化ビフェニール)やダイオキシンが検出されたのです。食品中に混入したPCB等による食中毒として知られる「カネミ油症事件」です。この事件の患者数は、およそ1万3千人といわれます。多くの人が発疹や肝機能障害や神経障害といった症状に苦しみました。
PCB(ポリ塩化ビフェニール)とは人工的に作られた化学物質です。水に極めて溶けにくく沸点が高いこと、また熱により分解しにくく燃えにくいこと、電気を通しにくいことといった化学的に安定した性質を持ち、そのため工業の発展には欠かせない物質として、電気機器の絶縁油、熱交換器の熱媒体などに用いられました。
食用油からPCBが検出されたことは大きな事件でしたが、それ以外のところで、この物質は私たちが摂取してしまう危険性がありました。それはPCBの脂肪に溶けやすいという性質が原因です。摂取した生物の体内に濃縮・蓄積されていき、しかも環境中では分解されにくいため、食物連鎖の結果、魚や肉などの食材の中に入って人間に返ってくることが多く、事態は深刻化していることが次第にわかってきました。
現在では、製造中止となりその廃棄には国が当たることが決められています。
食物連鎖の影響
この他にも水俣病をはじめ、食物連鎖の結果、人間の健康に大きな被害を与えることになった化学物質の問題は多くのものがあります。
食物連鎖とは、「食べる・食べられる」という食物による関係での生物同士の繋がりです。
環境ホルモンの多くの物質は蓄積性があり、それらは生態系の中で生物濃縮されます。環境ホルモン物質を持った生き物を他の生き物が食べ、さらに他の生き物が食べるという食物連鎖の中で、次第に濃縮していくのです。環境中に放出される濃度がいくら少量でも、食物連鎖の上位に位置する物達には大きな問題となります。
日本人は周りを海に囲まれており、欧米人と比べて魚介類を好む人が多いですが、特に貝類の濃縮の度合いが非常に高いことが明らかになっています。環境が汚染されておらず、近海での漁が中心だったころは全く心配のなかったことでも、工業排水や生活排水が海に流れ込み、さらに外洋にまで出て魚を獲ってくるようになった現代では、魚介類には注意が必要だとの指摘も多くされています。
魚はヘルシー?
心臓病や脳梗塞を予防する効果があるとして期待されているDHAを摂取するために、魚を食べることが勧められていますが、これには異論もあります。日本人が好んで食するマグロや青魚などの大きな魚に含まれている水銀は、動脈にダメージを与え、血栓を形成し、心臓発作等のリスクを高めることが指摘されています。そのリスクは、DHAなどのn-3系脂肪酸が持つ循環器系の疾患に対する予防効果と相殺されるばかりでなく、デメリットのほうが大きいとも言われています。
魚は肉よりは低脂肪で、かつ不飽和脂肪酸を多く含んでいます。肉を選ぶか魚を選ぶかという時点では、魚を選んだ方がヘルシーでしょう。しかし、私たちが好んで食する大型の魚は食物連鎖の上位部に位置しており、汚染物質が体内で凝縮されていることを考えると、深刻な症状を引き起こす可能性も無視できません。
■Lesson5-7 まとめ■
- 近年様々なところで生物の生殖異常などが問題視されているが、これは環境ホルモンが原因とされている。人間への影響も大きく、女性の場合、不妊率の上昇や乳がんの増加、また男性の場合は精子の量の減少や奇形問題が環境ホルモンとの関連性が指摘されている。
- 環境ホルモンは内分泌撹乱物質と呼ばれる化学物質で、特定の物質の名前ではなく、生物のホルモンの働きを狂わせてしまう化学物質の総称である。
- 環境ホルモンには、殺菌剤・防腐剤・殺虫剤・農薬・食品添加物・ダイオキシンなど、約70種もの化学物質が上げられる。多くの生物や私たちに影響を与えている環境ホルモンによる異常の原因は、私たち自身が創り出した化学物質である。
- 環境ホルモンの影響例として、知能低下・学力障害・注意力欠如・ストレスへの過剰反応・ 拒食症・強迫神経症・様々な不安症・鬱状態・アレルギー、胎児への影響などがある。ファーストフードや市販の菓子類に多量に含まれている食品添加物からの化学物質の摂取も大きな原因の1つで、子供が摂取しやすく影響を受けやすい。
- 環境ホルモンから身を守るための方法は、①有害物質を極力取り込まないようにすること、②ビタミンやミネラルなどを積極的に摂取しデトックスを促すこと、③食物繊維を積極的に摂取し腸内環境を整えること、などがある。
- 水俣病をはじめ、食物連鎖の結果、人間の健康に大きな被害を与えることになった化学物質の問題は多くある。
- 環境ホルモンの多くの物質は蓄積性があり、それらは生態系のなかで生物濃縮される。
- 日本人が好んで食する大型魚に蓄積されている水銀は、動脈にダメージを与え、血栓を形成し、心臓発作等のリスクを高める可能性が指摘されている。DHAなどのn-3系脂肪酸が持つ循環器系の疾患に対する予防効果と相殺されるばかりでなく、デメリットのほうが大きいとも言わる。