Lesson2-4 ファスティングとキリスト教②

『聖書』にみる断食

『聖書』には多くの「断食」の話が登場します。
例えば、モーゼはシナイ山のふもとで、神の掟である「十戒」を受けることが許されるまで40日間の絶食を行ったと記されています。また『旧約聖書』の「レビ記」においては、断食は永遠に守られるべき掟であると定められています。
ですから人々は、何か大きな災厄に見舞われた時や、自分の罪を嘆いて悔い改めるとき、神への献身を表現するときに「断食」を行いました。信徒にとって、神を礼拝すること、自らを高めようとすること、断食という3つの要素は、分ち難いものだったのです。
現在でも、宗派ごとに解釈の違いはあるようですが、罪を悔い改め、祈りを捧げるために「断食」をするのであれば、それは積極的に行うべきものであると考えられています。
なお、プロテスタントの教会では一般的には断食の規定はありません。
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蛇の道は蛇? 誘惑に勝てない人も

11世紀になると、ブーハルトというドイツの神学者が、断食の規定を厳しい戒律としてあらわしました。彼は肉食や乳製品の飲食を制限しなければならないと定め、修道士はこれを守らねばなりませんでした。
しかし、修道士たちは厳しい戒律を方便で潜り抜ける方法を編み出します。
例えば、泳いだり、水にふれたりするものは「肉のない生き物」とみなし食べてよいとされました。たいていの場合「魚」を連想しますが、そうではありません。なんと水に触れていれば条件にかなうので、白鳥などの水鳥もOKとなります。
これだけではなく、豚などの肉を加工して、魚やエビの形に見立てたものも黙認されました。さらには、狩りで射止めた鹿を池に放り込んで、「泳いでいる生き物だ!」と叫んで、この動物を「鯉」と名づけたというエピソードもあるほどです。結局のところ、「肉」を食べるという誘惑には勝てない人たちも多くいたようです。
断食の期間中は「飲み物は飲んでもよい」とされていました。この規定をうまく利用して各地の修道院で造られたのがビールです。ドイツのおいしいビールの歴史は、こうして始まったといわれています。
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断食中にも甘い誘惑はOK?!

また、断食の期間中には甘いものは禁止されていませんでした。
16世紀に南米からもたらされた「原住民のまずい飲み物」が、スペインの修道女の手で「チョコレート」という飲み物(つまりココアの原型)になった時、教皇ピウス5世は「チョコレートを飲むことは断食の掟に反しない」という見解を出しました。その後、ヨーロッパの四旬節で行われる断食期間中には、チョコレートを断食の抜け道として飲む修道院が増えていくこととなります。
やがてこれがヨーロッパに広がり、技術的な改良が重ねられて現在のチョコレートになりました。

■Lesson2-4 まとめ■

  • 『聖書』には多くの「断食」の話が登場する。そのため信徒は何か大きな災厄に見舞われた時や、自分の罪を嘆いて悔い改めるとき、神への献身を表現するときに「断食」を行った。彼らにとって、神を礼拝すること、自らを高めようとすること、断食という3つの要素は、分かちがたいものであった。
  • 修道士は戒律としての厳しい断食定められた事もあったが、様々な方便でくぐり抜けたことで、現在のドイツのビールなど食の発展がある。
  • 教皇ピウス5世は「チョコレートを飲むことは断食の掟に反しない」という見解を出したため、断食期間中にチョコレートは多く食され、ヨーロッパの現在のチョコレートの発展にも繋がったと言われている。